年に数百棟の貸ビルを見に行く。貸ビルとしての出来不出来を査定するためである。貸せるのか貸せないのか。いくらなら貸せるのか。ぱっと観て設計の好きな設計士が建築した建物だとわかるビルがある。建築士だけが満足する自己撞着のような建物は貸ビルとして失格である。
建築士がひとり楽しむのではなく、テナントの目的が充足される建物が良い貸ビルである。
テナントがビルを借りる目的は何なのか、考えたことがない建築士はビルを設計してはいけない。
昔、ヒサエダさんという弁護士さんに、大手設計事務所の責任者に会ってくれと頼まれたことがある。ヒサエダさんが貸ビルを建てるという。設計を頼んだ事務所の責任者にわたしの考えを教えてほしいと言う。
責任者はわたしの言うとおりに図面を修正しようとしない。大口論である。
あなたはこの設計ブランで、いくらで貸せるのか、テナントが何の目的でビルを借りるのか、1度でも考えたことがありますか。
さあ言ってみて下さい、何も言えないのなら、わたしの言うとおりに設計しなさい。
設計事務所の責任者とは喧嘩別れしてしまったけれと、ビルが完成し見に行ったところ、わたしの指摘したとおりに設計されていたのであった。